画像診断において放射線科専門医はまず主治医からの依頼書、カルテを見て検査目的と画像の種類を確認します。読影では異常所見の有無を判断し、所見を特定、記述します。更に、所見の解釈、病態分析、鑑別診断を加え、最終診断に至ります。通常は多種類の画像を分析して異常所見の部位、形態、辺縁、境界、性状等を特定します。現段階ではAIが多種類の画像を同時に扱うことは困難です。
異常所見をみつけるためには正常解剖や過去画像との対比が特に重要となります。但し、正常解剖は年齢、性別、個体差、撮影装置によって大きく変化するのでそれぞれに対応したAI学習のための教師画像データをそろえる必要があります。よって画像診断におけるAI開発においてはこのような正常解剖や撮影法の知識が不可欠です。しかしAIは画像撮影の補助やノイズの除去等にも有効であり、特に画像診断の専門家が不足している地域では大いに役立つと期待されています。
X線やCTは代表的な画像診断の医療機器です。使用されるX線は波長が短く、透過性が高いことが特徴です。この透過作用は対象物質の密度や長さにも影響されます。画像作成ではX線の透過作用、感光作用、電離作用を利用します。X線による物質透過の際に原子、分子にエネルギーを供給し、電子を放出させます。そして光子であるX線がエネルギーを持つ電子に吸収されます。最終的に吸収されずに残存したX線の透過量によって画像の濃淡が決まります。
この濃淡は組織の種類や状態によって異なるので、このコントラストとX線との接線形成により映像化されます。現在ではこの過程はコンピューター処理によって行われ、映像化されます。CTはX線を3次元化したものですが、映像化の原理は同様です。ただし水のCT値を0とする基準を使用します。CT値では2000段階の濃淡がありますが、実際には256段階しか表現できないので、表現の幅を用途に応じて選択します。場合によっては造影剤を必要とします。又、濃淡は対象物質の体積と密度双方に影響されます。
MRIは、磁場内で特定の周波数の電波を照射された様々な物体を撮影する装置です。体積あたりに含まれる水素原子核(プロトン)の密度の違いを利用してある時間におけるプロトンの状態を画像化します。特定の周波数の電波照射により物体の中の水素原子核が同じ方向を向き(磁気共鳴又は励起)、電波を切ると元の方向に戻ります(緩和)。各組織によってプ含まれるプロトンの量が異なるのでこの緩和のスピードも異なるのです。この違いが各組織の画像化に役立つのです。
原則的には縦方向の緩和を画像化したT1強調画像と横方向の緩和を画像化したT2強調画像があります。各組織における緩和のスピードはT1強調とT2強調で異なります。よって両者の使い分けが重要となります。更に、水の影響を抑制したFLAIR、水分子の拡散の程度を画像化した拡散強調画像、組織の磁化率の差を強調した磁化率強調画像などによって各組織の状態をより詳細に把握することができます。
PET(Positron Emission Tomography)とは陽電子の消滅の際に生じる消滅放射線を測定し組織臓器の機能を視覚化した画像を作成する装置です。主に血流や代謝の生理学的機能情報を定量的に画像化します。PET検査では、陽電子放出核種を付けたグルコース等が使用されます。この陽電子は陽子過多で不安定な原子核から生成、放出され、近くの電子と衝突、消滅し、その結果一定のエネルギーを放出します。このエネルギーは(γ線)はシンチレーターによって光信号に変換され、光電子増倍管により増幅され、位置演算回路により位置情報を取得されます。ただし撮影条件により様々な誤差が生じるため、誤差の調整が重要となります。
測定されたある位置における放射能量はFiltered Back Projection(FBP)によって画像に再構成され、Standardized Uptake Value(SUV)によって評価されます。SUVの平均は1です。機能画像を提供するPETではCTのような形態学的検査とは異なるので、炎症や感染を画像化することができ、治療効果や予後を予測するのに有効です。更にAIによってPETによる病態に関する診断と予測や画像作成が向上するものと期待されています。
超音波検査では2万㎐以上の高周波数の音波を照射し、反射した音波を画像化します。超音波の空間、コントラストと時間を分解する能力を利用しています。コントラスト分解能とは組織の音響インピーダンスの違いを描出する能力で、X線CT画像より鋭敏な画像を作成します。超音波検査の利点は非侵襲性、簡便性、リアルタイム表示です。欠点は操作の困難性とガス、脂肪、距離による表示の制限です。
IVRとはInterventional radiologyの略語で、X線透視、血管造影、超音波、CT等の画像診断と同時にリアルタイムで処置、治療を行うことです。細かい画像をリアルタイムで確認できる利点がありますが、放射線被爆と侵襲性という欠点があります。IVRでは塞栓術、血管拡張術、血管形成術、焼灼療法、埋め込み、生検やドレナージが行われます。塞栓術は癌、動脈瘤や出血、血管拡張術は狭窄症、血管形成術は上大静脈症候群、焼灼療法は癌、埋め込みはカテーテル留置、生検は病変の診断、ドレナージは排出の際等にそれぞれ行われます。
コンピューターの世界には0と1しかありません。コンピューターにおける全ての情報は0と1の組み合わせによって保存され表現されます。但し、これらの情報は便宜上16進法によって管理されています。例えば「0110」は10進法で6を意味します。そしてコンピューター上のテキストファイルの中の情報はBinary Editor BZのようなソフトウェアによって確認することができます。それぞれの情報にはタグが付けられているので、情報の種類も確認することができます。
医療情報においてはDICOM規格(Digital Imaging and Communications in Medicine)が使用されます。例えば、「08 00 90 10」は製造業者を意味します。但し、ここではリトルエンディアンが採用され、「00 08 10 90」と記載されています。これに対してビッグエンディアンでは数の順番を変更しません。コンピューター上でプログラミングを使用して画像情報ファイルを開くと、16進法で保存されていた情報が、人間が認識できる文字や画像に変換されるのです。
医療画像の評価は大きく分けて定性評価と定量評価に分類されます。定性評価とは医師、特に放射線診断医がX線、CT、PETやMRIなどの画像から病変の検出や鑑別を行うことで、医師の知識や経験に基づく能力に大きく依存します。定量評価とはこれらの画像から抽出される信号強度、分布、形状情報や機能的情報などの定量的特徴量をコンピューター処理によって解析することです。この解析により診断や予後等を予測します。定量評価によるコンピューター支援診断(CAD)や個別化医療が期待されています。
定量評価はより客観性がありますが、様々な複雑な過程を要します。定量的指標にはStandardized Uptake Value(SUV)、Region of Interest(ROI)内のピクセル値の統計量や組織内の水分子の拡散現象を利用したApparent Diffusion Coefficient(ADC)等が使用されます。そのための特徴量の抽出にはROIのSegmentation、指標のStandardization、Interpolationによるピクセルサイズの統一化、Features Selection等の前処理が必要です。更に、Convolutional Neural Network(CNN)等の予測モデルを選択します。このモデルが抽出された定量的指標から診断や予後等を予測します。そしてReceiver Operating Characteristic(ROC)解析によってモデルによる予測の評価指標を算出します。この解析曲線は感度、1-特異度、カットオフ値から作成されます。
人工知能(AI)は病理診断にも応用することができます。病理専門医と同程度の精度でかつ迅速に病理判断をすることができます。但しAIを訓練するための教師データの作成に注意する必要があります。例えば、データの画像の中に教師データとして相応しくない部分を含むことがあります。一つの病理画像に別の病態と思わせる部分が含まれていることもあります。又、核クロマチン等の病変とは関係ない特徴量がAIの判断を妨害することもあります。
更に、AIの判断根拠が不明でブラックボックスとなってしまう問題があります。そこで、Grad-CAM(Gradient-weighted Class Activation Mapping)により、AIが画像診断のために特に重視した画像部分を図示し、AIの判断根拠を知ることができます。又、画像に臨床所見に関する情報を加えることによって精度を向上させることも検討されています。このような工夫により、医師がAIを病理診断においても使用しやすくなり、AIのサポート役割が向上します。
現在MRIやCT等の画像診断機器は多くの医療機関で購入されています。しかしながら、医師が少ない地方ではこれらの医療画像を診断する放射線専門医が極めて不足しています。以前は専門医が常に大都市から地方へ出張して診断する必要性がありました。専門医の負担が大きく、検査から結果報告まで時間もかかりました。現在では医療画像を地方から伝送して大都市にいる専門医に診断してもらうことも可能です。但し、これでも専門医不足は解消されておりません。
そこでこのような遠隔画像診断においても人工知能(AI)の活躍が期待されています。診断やレポート作成の補助のみならず医療画像の専門医への振り分けも可能になるかもしれません。しかし、現在のAIでは病変発見の精度があまり高くなく、過大な情報量のためインターネットが遮断させることもあります。又AIは、一部の特に優秀な専門医に難解な画像を大量に振り分ける傾向があります。AIで診断した場合の医療機関が受け取る診療報酬も考察する必要があります。
人工知能(AI)は医療においても様々な仕事を代行することが可能である。例えばAIは、過去のデータから分類方法を学習し未知のデータから疾患を鑑別する分類、過去のデータからパターンを学習し未知の結果を予測する回帰、データを類似性からグループ化するクラスタリング、そして計算コスト削減やデータ可視化する主成分分析等の次元削減を行うことができる。更にノイズ削除により良質な画像を効率的に作成することもできる。
但しAIによる判断に関しては、完全な正確性は保証されておらず、判断の根拠もブラックボックスの中で不明なことも多い。従ってAIの医療への実用化においてはAI医療のブラックボックス化、安全性担保と性能評価、市販後の性能変化、システム誤動作に対する検知性などが問題となり、厳しい規制が必要となる。又、患者に対して良質な医療を提供するため、AI製造業者と医師の責任の分担も明確にし、協力してリスクマネジメントを行う必要がある。
医療AIが臨床で使用されるためには特に以下の事項に留意する必要があります。まず医師が医療AIを使用する際に余計な手間を要しないことです。医師は普段から業務多忙なので余計な時間を要することを好みません。画像診断のAIにおいては、画像的所見を指摘することに止め、疾患の鑑別診断をすることは避けるべきです。そもそも実際の臨床では画像からの情報のみで疾患を最終診断することは通常できません。更に高精度な機能を有することも必須です。
医療AIの開発においては、プログラム言語はPython一択であり、PytorchとTensorFlow(Keras)のどちらも使用することができます。但し、Neural NetworkによるDeep Learningは人の学習に類似していますが、同一ではありません。そしてエンジニアにとってはNeural Networkは決してブラックボックスではなく、数学的に構築されています。よってエンジニアは医師の医学的思考を理解した上で数学的な視点から試行錯誤しつつ医師の思考と出来る限り同一になるようなモデルを設計する必要があります。
現在多くの企業で人工知能(AI)を使用して画像診断を行う医療機器の研究開発が行われています。具体的には自動的な人体の撮影位置を設定、特定の解剖部位の特定、ノイズの除去による低線量被爆高画質画像の作成が挙げられます。画像コントラストや解剖構造に個体差がない場合には一定のルールに基づいて画像の特徴を認識することが可能です。例えば、頭部正中線の傾きの認識です。
しかし多くの場合には形状の個体差が存在するため機械学習による画像認識の方が有効です。主にActive Shape ModelとAdaboost法が行われています。医療画像におけるノイズの除去もConvolutional Neural Network(CNN)によって可能となっています。この技術を応用することにより、短時間かつ低線量放射能被爆で撮影されたノイズを含む画像を高画質画像に変換することができます。よって検査の際の患者の放射線被爆量と検査時間を減少させることができます。
このような医療機器の発展に伴い、安全性、有効性、個人情報保護に関する規制を再構成する必要性も迫られています。
現在、人工知能(AI)は、自動車や翻訳など、様々な業界で広く採用されています。 RadiomicsもAIの使用によるメリットを享受しています。Radiomicsでは、放射線写真の医用画像から多数の特徴を抽出し、病気の特徴を見つけ、これらのうち予後と治療反応を予測するのに特に役立つものを選択します。Radiomicsのプロセスには、疑わしい病理学的特徴を発見するためのセグメンテーションが含まれます。この過程は、データセットを使用して機械学習アルゴリズムをトレーニングすることで自動化することが可能です。機械学習は、教師あり学習、教師なし学習、強化学習に分類され、さらにさまざまな種類に分類されます。
分類など、ある特定の種類のタスクを実行することができるAIモデルは多種類存在します。 AIが特定の目的のために働くための最高の能力を獲得できるように、目的ごとに最適なAIモデルを選択することが重要です。又、正確で効果的な分類を行うためには、データから最も関連性の高い特徴と、ハイパーパラメータを選択することも不可欠です。 AIの分類パフォーマンスの質は、多くの場合、感度、特異性、精度によって測定され、ROC曲線によって視覚化されます。
例えば、メチル化状態とトランスクリプトームのサブタイプは、GBM(多形性膠芽腫)の治療と予後の予測に大きな役割を果たします。このように、機械学習による分類は医療目的で大きな注目を集めています。ここでは、XGBoostモデルが最良の分類器であることが明らかになり、モデルの最高のパフォーマンスのために9つの特徴が選択されました。
画像診断における人工知能(AI)を研究開発する際には多くの課題を解決する必要があります。まず画像診断AIの作成には医療画像が必須です。それぞれの疾患を含む医療画像の症例数がある程度必要となります。ここでは研究機関による画像の共有やAIによる画像の作成等も問題となります。画像の形式も質も一定の統一された要件を満たす必要があります。更に教師画像作成のためには専門医によるラベル付けが必要です。
医療AIは臨床の現場の需要を満たすものである必要があります。このようなAIを開発するためには臨床の専門家とプログラミングの専門家の共同開発が一般的です。実際に実用化、商品化するためには国内のみならず国際市場を考えて予算や法律、特許等の知的財産戦略、マーケティング等を考慮しなくてはいけません。特に医療行為においては判断根拠が重要なので、AIにおけるブラックボックスの問題をできる限り解決し、安全性と有効性を確保することが要求されます。