医療AI特別セミナー

第1回

現在においてAIは急速に発展し様々な産業界において実用化されている。医療分野においても発症リスクの評価予測、画像診断、疾患診断、治療法選択、手術の自動化、予後予測等の業務の効率化、質の向上に役立つことが期待されている。そこでまず医療AIの研究開発に従事する人材の育成が不可欠である。日本においても医療系学部を有する大学を中心に、ゲノム医療、画像診断、医薬品開発等における医療AIに貢献する人材育成が進められている。

 

医療AIにおける画像診断においては主に、Convolutional Neural NetworkCNN特にImage ClassificationObject DetectionSemantic Segmentationのモデルを転移学習させることが広く行われている。使い方によっては診断や撮影の補助や病変の見落としを減らす手段として有効である。但し、実際の医療に役立つ医療AIを研究開発するためには、医療AIの目的や明確な課題の設定、画像の種類の選択、教師画像の作成、モデルの選択等を予め適切に計画する必要がある。

第2回(医療におけるAI の歴史と未来)

現在人工知能(AI)は医療分野も含めて様々な分野で活躍しているが、これまでのAIの発展は決して平坦なものではなく様々な失敗と改良を経てきました。以前はAIの思考過程は人間の思考や知識内容に依存していました。現在ではAIはこれらに関係なく最良の計算方式により課題を解決することができます。パーセプトロンの多層化により非線形解析が可能になりました。又、使用される関数もヘビサイドからロジスティクス(シグモイド)、ランプ(ReLU)関数と変化し、パラメータの更新のための逆伝播法や最急降下法も開発されました。

 

AIは膨大な情報を同時に記憶し処理できることにおいて人間よりも優れ、医療においても診断(特に画像)、創薬(drug repositioning等で実力を発揮します。ただしAIの思考過程がブラックボックスのままであり、AIは医療行為の主役ではなく医師の補佐役として期待されています。特に医師が不足した地方でAIによる補佐が重要になると思われます。又、AIの学習には多量の情報(big dataが必要であり、医療と情報処理の連携が不可欠です。

第3回(医用AI を法と倫理の面から考える)

人工知能(AI)が医療に使用されるとしても、医療行為を決定する権限と責任は医師にあり、AIは医療機器の一部として扱われます。ただし現在の法律では医療機器が学習により性能が大きく変化することを想定していません。AIがどのように医療従事者を支援するべきかを検討する必要があります。

 

更に、AIの発展にはビッグデータが必須であり、医療情報の共有化が進んでいます。但し、医療情報は膨大な個人情報の集合であり、その取扱いが問題となります。どのように個人情報を保護するのかを検討する必要があります。

 

医療行為においては判断過程を説明することが必須であり、AIが医療で使用される場合にも同様です。そして医療従事者はAIの使用につき責任を伴うので、AIの仕組みについてある程度精通している必要があります。しかしながら、AIの仕組みや判断過程を理解することは非常に困難です。これらの問題が解決されない限り、AIが医療で幅広く使用されることは困難でしょう。

第4回

人類が学問を行う上で演繹法と帰納法という歴史上2つのアプローチによる対立概念が存在します。演繹法は理論的な法則に基づいて事象を説明する方法です。帰納法は過去の経験則に基づいて事象を説明する方法です。例えば、演繹法は太陽が東から登り、西に沈むことを地動説に基づいて説明します。帰納法では今日まで毎日同じことが起きることを理由とします。実は人工知能(AI)についても同様のことが言えます。

 

過去のAIは演繹法を中心に設計され、現在のAIは帰納法を中心に設計されています。過去のAIは人間が作り出したアルゴリズムに基づいて機能していました。典型的な例は電卓です。電卓の数学的な機能は極めて論理的です。これに対して現在のAIによる画像認識、特に医療画像診断のアルゴリズムは、過去のデータに基づいて計算され、それ以上の理論的な法則は要求されません。言い換えればAIの中身がブラックボックスとなっています。

第5回

人工知能(AI)は医療のみならず健康、介護、福祉の分野においても活用が期待されています。健康と医療の分野では、主に予防、診断、治療、医薬品開発、ゲノム医療が行われています。予防領域においては、AIはモニタリング、健康生活と健康維持支援、発症予防、保健指導に利用される可能性があります。診断や治療領域においては、問診、画像診断支援、手術支援、治療計画策定、在宅医療、遠隔診療やリハビリテーション等にAIが役立つと期待されています。介護福祉分野においては、介助、コミュニケーション支援等でAIが有効活用されています。

 

AIがこのような分野に利用されるためには、まず医療や健康に関するデータが電子化、統一化、共有化される必要があります。よって国家による支援体制が必須となります。又、AIシステムの開発は極めて複雑で、各業界の共通の理解や患者にとって本当に必要なものに関する把握も重要です。更に医療機器のそれぞれの部品が国際化していることから、AI開発においても国際的な協力が必要です。

第6回

人工知能(AI)の利用は、MRIの使用における画像診断支援、撮影補助、安全性の向上そして高速撮像に役立つことが期待されています。MRI主な長所は放射線無被爆、優れた組織間コントラスト、豊富な撮像法による多方面の評価、造影剤不使用による血管の画像の取得です。主な短所は長い撮像時間、熱傷の危険性と磁場吸引性です。AIによりMRIの長所を増強し、短所を減少させることが期待されています。

 

具体的にはAIによりMRI検査における患者のポジショニング、撮像法選定、撮像位置の設定を効率化することができます。撮像位置の固定化は病変部の変化を経時的に観察するために特に有効です。画像処理を効率化することにより撮像時間を短縮化することも検討されています。読影や診断においては病変部を図示する作業量の低減や病変部の見落としの防止に役立つことが期待されています。

 

更に、MRIの原理は電子レンジと似ているため、長時間の撮像により熱傷を発生させることもあります。低エネルギー照射とAIによりこの熱傷を予め予測することができれば、この副作用を防止することができるでしょう。MRIによる生体の解剖情報、生理情報、機能情報の取得が向上することが期待されています。

第7回(深層学習の臨床応用)

近年における人工知能(AI)の発達では、急速な変化と共に一定の発達の方向が見られます。深層学習における層の数が増加する一方、それぞれの部品はそれほど複雑化していません。又、AIのアルゴリズムの向上よりもビッグデータの規模による性能の向上が重視されつつあります。更に、ライブラリ等の開発環境が成長し、AIのビジネス事業における参入障壁も低くなる傾向があります。誰でもAIを使用できる時代が来ています。

 

但し医療AIの分野では、個人情報保護の観点から医療データの入手が非常に困難です。よってアルゴリズムは公開されていても、医療ビッグデータが入手できなければ医療AIビジネスには参入できません。又、医療AIのための医療データのラベル付け(annotation)を行う人材の確保も必要となります。現在では自己教師あり学習(self-supervised learning)による少数の教師データによる学習方法も研究されています。